一期一会のボニンブルーの世界! 小笠原

- 潜水してまもなく悠然と泳ぐアオウミガメさんが現れまるで「お!よく来たね!こちらへおいでよ~!」と誘うかのような表情でゆっくりと鰭を動かしました・・・アオウミガメさんの正面に回り込んでファインダーを覗いてみるとカメラのレンズの向こうにあるウミガメの瞳はただの野生動物のそれとは違っていました・・・それは何十年あるいは何百年という長い時間をこの青くて広く深い国で過ごしてきた者だけが持つ圧倒的な静けさと賢さを湛えた表情でした・・・アオウミガメさんの顔のシワひとつひとつそして少しだけ気だるそうにしかしすべてを見透かすように細められた瞳を見ていると人間が繰り広げる喧騒など海の悠久の歴史に比べればほんの一瞬の出来事に過ぎないということを雄弁に物語っているようでした・・・私がそっとシャッターを切るとアオウミガメさんは小さく瞬きましたがそれは警戒ではなくただそこに静かに存在する異質な人間へのささやかな挨拶のようにも見えました・・・アオウミガメさんが再びゆっくりと泳ぎだしサンゴの森の奥へと消えていくその最後の瞬間までその穏やかで深い眼差しは心に残り続けるのでした。

- アオウミガメさんに導かれたように光が届きにくい薄暗い岩の裂け目に光をそっと当てるとそこには奇妙な岩のようなものがありました・・・それは岩ではなくよく見ると真っ白な体に赤褐色の斑紋ある海綿に完璧に化けたオオモンカエルアンコウさんでした・・・アオウミガメさんの神聖な雰囲気とは打って変わりオオモンカエルアンコウさんの佇まいはどこかユーモラスで職人気質な印象です・・・オオモンカエルアンコウさんは鰭を足のように使って海底にどっしりと根を下ろし全く動こうとしません・・・ぶ厚い唇をへの字に結んだその顔はまるで「おれの邪魔をするな!忙しいからあっちへ行ってろ!」と頑固に職務を全うする偏屈な海底の番人のようでした・・・オオモンカエルアンコウさんはカメラを向けても微動だにせずただじっと一点を見つめ頭の上の小さなエスカ(疑似餌)で何時間もこうして獲物が通りかかるのを待ち続けているのです・・・気が遠くなるような忍耐強さと周囲に溶け込む完璧な擬態の美しさを併せ持つ職人のオオモンカエルアンコウさん・・・海の底ではアオウミガメさんのような旅人もいればこうして一歩も動かずに生きる表現者もいるのですがそんなオオモンカエルアンコウさんのへの字の口元が一瞬だけ不敵にニヤリと歪んだように見えました。

- オオモンカエルアンコウさんとの音のない緊迫した我慢比べをした後に岩穴の奥から「お邪魔しま~す!」と言わんばかりの勢いで一匹のお魚さんが飛び出してきました・・・大きな目をさらに丸くしておちょぼ口をぽかんと開けたそのお魚さんこそ海のひょうきん者ヒトヅラハリセンボンさんではないですか?・・・その名の通り背中の斑紋が人の顔に見えるのですが正面から見るとどこか人間の困ったようなあるいは驚いたようななんとも愛嬌のある顔立ちをしています・・・ヒトヅラハリセンボンさんもカメラのレンズに興味を持ったのか少しずつ前に出てきてホバリングしながらレンズの真ん前で「なになに?何してるの?」とでも言いたげに目をパチパチとさせてこちらを覗き込んできます・・・ヒトヅラハリセンボンさんの圧倒的にコミカルでトボけた顔を見続けることで癒される私でした。

- ノコギリダイさんの群れの中でむっとした表情をしているお魚さんは大きな瞳を青い光の中にぎらつかせたホウセキキントキさんではないでしょうか?・・・この青一色の世界の中で大きな上向きの口と光を精一杯に集めるための巨大な眼を持ったホウセキキントキさんはまるで海底の劇場に集まった観客たちのようです・・・青い海底に溶け込むようなホウセキキントキさんのその大きな瞳はいったい何をじっと見つめそして何を考えているのでしょうか?・・・ホウセキキントキさんが頑なに一点を凝視していた理由はもしかしたら人間がまだ足を踏み入れていない未踏の領域から発せられる「何か」をその巨大な眼で見ていたのかもしれません・・・ホウセキキントキさんのその大きな口で私に「ほら!君にも見えないか?」とでも言いたかったのかもしれません。

- そんなことを考えながらそろそろエキジットしようかと浮上しようとしたとき目の前に現れたのはツバメウオさんでした・・・幼魚期に上下の鰭が驚くほど長く伸びそのスマートに泳ぐ姿が鳥のツバメさんを連想させることから名前が付けられたツバメウオさんはとても好奇心が強くフレンドリーなお魚さんです・・・そんなツバメウオさんですが実は隠れた絶品・高級白身魚としての一面も持っていて非常にクセのない綺麗な白身でしっかりとした旨味とほんのりとした甘みがあります・・・イチオシはエンガワで大きな背鰭と尻鰭を支えるための筋肉が発達しておりここから肉厚で大きなエンガワが取れます・・・この部分は非常に脂がのっており噛み締めると甘い脂がじわりと溶け出し刺身にすると絶品です・・・ツバメウオさんは雑食性でクラゲや藻類なども食べるため真夏の一部の個体には稀に磯臭さがある場合がありますが秋から冬にかけて水揚げされるツバメウオさんは臭みもなく最高の状態と言われています・・・そんなことを考えていると泡の音しかしない静寂の中でツバメウオさんの顔は圧倒的な威圧感と「なんてことを考えているんだ!」とその強い意志が感じられます。


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