三度生まれ変わるハナヒゲウツボさんの秘密! 小笠原

- 光がかすかに届く小笠原の青い海・・・その砂底に一本の小さなリボンのようなものが岩の隙間からふらふらと現れました・・・それは鮮やかな青い体と黄色い背鰭と口元が特徴的な形をしたウツボ科のお魚さんのハナヒゲウツボさんでした・・・ハナヒゲウツボさんは成長段階に合わせて性転換と体色の変化を行う非常に珍しい生態を持ったウツボさんで生涯で3回姿を変えるのです・・・幼魚期は背鰭は黄色ですが体全体が細長く真っ黒で穴からひょっこり顔を出した姿は黒いリボンのような姿をした未成熟のオスです・・・成魚期は上の写真の様に背鰭と口元が鮮やかな黄色でもっともよく知られているカラーリングをしたオスのハナヒゲウツボさんです・・・老成期には体長が1mほどに成熟すると性転換してメスになり全身は黄色になって卵を産みます・・・メスのハナヒゲウツボさんは産卵後すぐに寿命を迎えてしまうとされており自然界やダイビング中に遭遇できる確率は極めて低い激レアな姿として知られています。

- 名前の由来でもあるまるで美しい花びらのように開いた独特な形の黄色い一対のハナヒゲを誇らしげにゆらゆらさせていますがこれは単なる飾りではなく餌を捕るための超高感度センサーなのです・・・筒状に広がった鼻孔で周囲の水の流れを効率よく取り込み獲物の匂いを素早く察知しゆらゆらと動かすことで小魚さんに美味しそうなゴカイがいると錯覚させて目の前まで誘い込んで食らいつくのです・・・それからハナヒゲウツボさんは口を大きく開けてパクパクさせていつも怒って威嚇しているように見えますが本当の理由は怒っているわけでも常に威嚇しているわけでもなく主に呼吸をするためにやっているのです・・・ハナヒゲウツボさんをはじめとするウツボさんの仲間は普段は巣穴にじっと身を潜めていますがウツボ類は体の構造上エラ蓋を自力で大きく動かすことができません・・・そのため呼吸をするには口をガバッと大きく開けて口の中にいっぱいに水を取り込みそれから口を閉じその水を喉の奥の鰓穴へと押し流すこの動作を絶え間なく繰り返すことで効率よく酸素を取り込んでいるのです。

- その他にもハナヒゲウツボさんが口を大きく開けてパクパクさせている理由があります・・・ハナヒゲウツボさんは潮の流れに乗ってやってくる小さな甲殻類や小魚を主食としているので穴から顔を出し正面からの水流に向かって口を大きく開けておくことで流れてくるご飯が口に飛び込んでくるのを効率よく待ち構えているという側面もあります・・・だからハナヒゲウツボさんが可愛いからと食事の邪魔をして近づき過ぎてはいけないですよね・・・ただしハナヒゲウツボさんは非常に臆病な性格ですが本当に怒っている時もあります・・・ハナヒゲウツボさんが体ごと大きく乗り出して口を開けたまま静止してじっとこちらを睨みつけてくるときは「これ以上近づいたら噛みつくぞ!」と警告を発しているのだそうです。

- 話は変わりますがハナヒゲウツボさんをはじめウツボさんの仲間には咽頭顎と呼ばれる第2の顎が喉の奥に隠されています・・・SF映画に登場するエイリアンのようですがウツボさんはまず目に見えている通常の第1の口で噛みつき獲物をしっかりと捕らえます・・・さらに獲物を咥えると同時に喉の奥からもう一つの顎がまさにエイリアンのようにシュッと前方に飛び出してきます・・・第2の顎にある鋭い歯が獲物に突き刺さりそのままマジックハンドのように喉の奥へと獲物を引きずり込むのです・・・この一連の動作はわずか0.1〜0.2秒ほどの電撃的な早さで行われ一度噛みつかれた獲物はこのツイン構造の顎によって絶対に逃げられない仕組みになっているのです・・・ちょっと怖い話ですがそれではウツボさんがなぜ第2の顎が必要なのでしょうか?

- ウツボさんは主に岩の隙間や砂の穴に潜んで暮らしているため他のお魚さんのように口を大きく開けて水と一緒に獲物を一気に吸い込むという技が使えません・・・狭い場所ではウツボさんが水を吸い込むための十分なスペースがないからです・・・そのためウツボさんは獲物に直接ガブッと噛みついて捕らえますが手足がないためそのままでは獲物を喉の奥へ押し込むことができないのです・・・そこで役立つのが第2の顎である咽頭顎なのです・・・喉の奥からシューッと出てきた恐怖の第2の顎がお腹の中へと獲物を引きずりこんでいくというわけです・・・そんな恐ろしいウツボさんの特技ですがもしも人間がかまれて第2の顎がやってきたら怖い話ですがいったいどうなってしまうのでしょうか?

- もしウツボさんに第2の顎にまで人間が噛まれた場合肉をえぐり取られるような極めて重篤な大怪我に直結します・・・ハナヒゲウツボさんのような小型の種であっても油断はできずもし指や手が喉の奥の第2の顎にまで達して噛まれた場合第2の顎に生えている歯はすべて喉の奥に向かってフックのように強く湾曲した返しのついた歯になっていますのでさらに奥へ引きずり込まれます・・・そのため噛まれた瞬間に反射的に痛い!と手を外へ引っ張ろうとするとその鋭い歯がカミソリのように皮膚や肉に深く食い込み傷口をさらにズタズタに引き裂く結果になります・・・ウツボさんの構造上引っ張る力に対して自動的にホールドが強まるようになっているのです・・・ウツボさんの噛む力は非常に強力で第2の顎を動かす筋肉も非常に発達しているため骨に達するほどの深い裂傷を負うケースが多々あり最悪の場合は指の機能障害や切断に至る危険があります。

- またウツボさんの口内や喉の奥には獲物の血液や死骸の残りカスそしてビブリオ属などの危険な海洋細菌が無数に繁殖していますので第2の顎による深い傷口の奥底にこれらの細菌が送り込まれただの傷では済まされなくなります・・・もし噛まれてしまったらどうしたらいいのでしょうか?・・・ウツボさんに噛まれた際は無理に引き離そうとするのは絶対にNGです・・・無理に引かず諦めて力を抜くまたはさらに奥へ押し込むことです・・・信じられないかもしれませんが一度ウツボさんの口の奥へ手を押し込むようにするとウツボさんが異物だと気づいて口を離しやすくなると言われています・・・海から上がったら細菌を洗い流すために大量の水道水で傷口を激しく洗い流します・・・ウツボさんの傷は出血が非常に多くなりますので傷口を強く圧迫して心臓より高い位置に保ちながらすぐに救急外来を受診して抗生物質や破傷風の治療を受けてください・・・ハナヒゲウツボさんは大人しいお魚さんですがむやみに巣穴へ指を突っ込んだり餌付けをしようと手を近づけたりするのは絶対にやめましょう。

- ところでウツボさんのあのヌルヌルとした皮膚の粘液には単に滑りを良くするだけでなく敵から身を守るための粘液毒が分泌されていて他の生物にとって非常に有害な成分が含まれています・・・ウツボの皮膚の毒の正体はグラモミストキシンやそれに類似した溶血性の毒素が含まれています・・・この毒は主に外敵からの防御のためでウツボさんを丸呑みにしようとする大型のハタさんの様な天敵が口に入れた際に激しい苦味や刺激を感じさせて吐き出させるためのものです・・・その他に岩の隙間などで擦れて傷つきやすいウツボさんの体を海の細菌や寄生虫から守るバリアの役割も果たしています・・・ちなみにウツボさんに人間が触るとどうなるのでしょうか?・・・ウツボさんの皮膚に健康な手で触るだけであれば基本的には死に至るような強い急性毒性はありません・・・しかし手に切り傷やささくれがある状態でウツボさんのヌルヌルに触れると毒素が傷口から侵入し火傷を負ったような激しい痛みや腫れを引き起こします・・・また目や粘膜に入ると激しい結膜炎や角膜へのダメージを負う危険がありますし体質によってはこの粘液に触れるだけで皮膚が真っ赤に荒れたり激しい痒みを伴う湿疹などのアレルギー症状が出たりすることがあります。

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