海の底のちいさな旗ふり役はハタタテハゼさん! 小笠原

- この美しい海水魚はスズキ目クロユリハゼ科ハタタテハゼ属に分類されるハタタテハゼさんではないでしょうか?・・・ハタタテハゼさんは頭の後ろからピンと高く旗のように長く伸びる第一背鰭が最大の特徴で水中ではこの背鰭をピクピクと前後に動かしてホバリングする可愛らしい姿がよく見られます・・・ハタタテハゼさんは体の前半部は乳白色から明るいシアンで後半部に向かって鮮やかなオレンジ色から深い赤色へと変化する美しい色彩をしています・・・その美しさから英名ではファイヤーゴビーとも呼ばれていますがハタタテハゼさんはサンゴ礁や岩礁域の外縁にある砂礫底やガレ場などでよく見られ水深3〜30mほどの比較的浅い中層に単独またはペアで生息しています・・・ハタタテハゼさんは非常に臆病な性格をしておりダイバーや危険が近づくとすぐ下にあるテッポウエビの仲間などが掘った海底の巣穴へ素早く逃げ込む習性があります・・・ハタタテハゼさんに類似する近縁種にはより深場に生息し体が紫色を帯びるアケボノハゼさんやシコンハタタテハゼ(ヘルフリッチ)さんなどがいます。

- 今日も透き通るような海の底にあるガレ場に一匹の小さなハタタテハゼさん達が自慢の雪のように真っ白な長い背鰭を頭の後ろからピンと空に向かって伸ばし「僕の旗がこの海で一番かっこいいんだ!」などと言いながらお気に入りの巣穴の上でホバリングしています・・・その自慢の旗をピクピクと前後に振って通りかかるお魚さんたちにアピールしていました・・・そして体の後ろ半分はまるで夕焼けを閉じ込めたような鮮やかなオレンジ色をしていて水流にのって揺れるたびそれはまるで海の中で小さな炎が踊っているようにも見えました・・・しかしこの自慢したがりのハタタテハゼさんには一つだけ格好悪い弱点がありました・・・それはものすごく臆病なことでした・・・大きなお魚さんの影がよぎったりダイバーが吐き出す泡のボコボコッという音が聞こえたりするだけでハタタテハゼさん自慢の旗をペタンと寝かせ親友のテッポウエビさんが掘ってくれたマイホームの穴へと目にも留まらぬ速さで後ろ向きに飛び込んでしまうのです。

- 「ハタタテハゼさん!またそんなにすぐ隠れてたらせっかくの綺麗な服が泥で汚れちゃうよ」・・・隣の岩陰から声をかけてきたのは少し深い場所に住む近縁種のアケボノハゼさんです・・・アケボノハゼさんは頭が美しい紫色をしていて大人の落ち着きを持っています・・・「だって食べられちゃったらせっかくの旗も見せられないじゃないか!」とハタタテハゼさんは穴から目だけをきょろきょろと覗かせながら悔しそうにつぶやきました・・・ハタタテハゼさんの夢はいつか臆病な自分を克服してどんなに強い潮が流れる日でも大きな岩のてっぺんで堂々とその白い旗をなびかせることでした・・・そんな日々を重ねたある日のことです・・・強い嵐が近づきいつもは穏やかなサンゴ礁の外縁に激しいうねりが押し寄せ水中のプランクトンが巻き上がりお魚さんたちはごちそうを食べようと大はしゃぎでした・・・ハタタテハゼさんも流れてくる大好物のプランクトンに夢中になりいつもより少しだけ巣穴から遠くへ泳いでしまいました。

- すると濁った水の向こうから鋭い歯を持つ大きな肉食魚の影が猛スピードでハタタテハゼさんに向かって突進してきたのです・・・「しまった!」ハタタテハゼさんは本能的に巣穴へ逃げこもうとしましたが強いうねりに押し流されいつもの巣穴がどこにあるか見失ってしまったのです・・・肉食魚はもう目の前まで来ています・・・その瞬間ハタタテハゼさんの心の中で臆病な血ではなく誇り高い旗立ての心が目覚めたのです・・・ハタタテハゼさんは残された最後の力を振り絞って激しい水流に逆らいながら真上へと泳ぎ登り一番大きな岩のてっぺんで自慢の白い背鰭をこれまでにないほどピンと真っ直ぐに突き立てたのです・・・ハタタテハゼさんが「僕の旗を見ろ!」と激しく旗をピクピクと動かすと肉食魚の視線は完全に旗に引きつけられ大きな口が迫ります・・・万事休すかと思われたその刹那持ち前の危険を察知して飛び込む習性を最大限に発揮し岩の隙間にあった小さな暗闇の穴へと弾丸のような速さでバックで滑り込んだのです・・・ドスン!と大きなお魚さんが岩にぶつかる音が響きやがて諦めて去っていく気配がしました・・・ハタタテハゼさんが恐る恐る穴から顔を出すとまわりのガレ場からたくさんのハタタテハゼさんたちが一斉に顔を出し大喝采を送ってくれていました。


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